2022年版映画の『ナイル殺人事件』をレンタルで観ました。
ケネス・ブラナーが監督、そしてポアロ役を演じているもので、2018年の『オリエント急行殺人事件』に続く2作目となります。
ポアロのひげの秘密
エルキュール・ポアロといえば、ピンとした口ひげがトレードマーク。
デヴィッド・スーシェ主演のドラマが、たぶん最も馴染みが深いと思うのですが、このドラマシリーズでは、ポアロがなぜ口ひげを蓄えるようになったのか、その理由は説明されていなかったと思います。
『ナイル殺人事件』では、ポアロが戦争で顔に傷を負い、恋人のカトリーヌから「ひげを生やせばいい」と言われたことがきっかけであると、映画の冒頭に描かれています。
このエピソードは、たぶん原作にはないものだと思います。
原作に描かれていたら、何度もドラマ化・映画化されているポアロシリーズのどこかで、描かれているはずだと思うからです。
口ひげがポイントとなるのは、ポアロが盟友のアーサー・ヘイスティングズが、娘のことで殺人を行おうとするのを止めるため、ふたたびスタイルズ荘にやってくる『カーテン―ポアロ最後の事件』が記憶に残っています。
最後の事件なので、ポアロは最後に亡くなってしまうのですが、その前に悪魔のような犯人を殺害するのです。
そのトリックのために、長年蓄えていた口ひげを剃ります。
ちなみに、『ナイル殺人事件』のラストでも、口ひげのないポアロが登場します。
財産をいかにして奪うか
『ナイル殺人事件』は、いわゆる旅情ミステリーの草分けのような作品で、タイトル通り、エジプトが舞台です。
アガサ・クリスティの2番めの夫が考古学者だったので、オリエントの香りがする作品がいくつも残されていますが、『ナイル殺人事件』は、ナイルクルーズが舞台。
このナイルクルーズは、新婚旅行でもあり、そこにポアロが招かれているという設定です。
結婚したのは、メイフェア(ロンドンの中心にある、超がつく高級住宅街)出身の金持ちの女性(リネット)と、愛嬌とダンス以外に取り柄がない男。
そして、この男を紹介したのが、金持ち女の女友達(ジャッキー)で、お金持ちとはいい難い女。
自分の恋人を、女ともだちに奪われ、女はどこまでもつきまとうストーカーに変貌。
新婚旅行にまで、姿をあらわします。
三角関係のもつれが、結婚に暗雲をもたらしている、というのが表向きの設定なのですが、実は、男を紹介したところから、財産を奪うための計画がはじまっていた、というのが物語の骨子です。
結婚そのものがトリックであり、結婚して遺産として財産を奪う計画であり、そのためには妻となった女に死んで貰わなければなりません。
そして、殺人は決行され、財産奪取がなかば成功したかに見えるのですが、ポアロの観察と推理で、その企みは破られます。
なぜ、ひげエピソードを描いたのか?
『ナイル殺人事件』の悲しいラストからの勝手な憶測ですが、愛の形を描きたかったのかな、と思います。
財産家の女性は、子どもの頃から信頼できる友人ができず、周りにいるのはお金目当ての人間ばかり。
そこに登場した、自分の財産に興味を示さない女友達、そして男を気に入ります。
男を愛して結婚し、ストーカーされることで不安はあるもの、男の本意を知らないままに殺される女。
そして、財産奪取計画を破られ、男と女友達はピストル自殺。
愛ゆえの行動であり、悲劇として描かれています。
相当な悪知恵をもった犯罪者なんですけどね。
エジプトから帰ったポアロが、口ひげを剃った姿を見せるのは、なぜなのかな~と考えさせられます。
恋人のカトリーヌは、顔に傷を追ったポアロを元気づけるのですが、戦争のために亡くなってしまい、ポアロは終生独身を貫きます。
良き友人であったブークが殺されてしまった(ポアロにとっては予定外の出来事)ため、その追悼のために口ひげを剃ったのかもしれません。
または、カトリーヌが戦争で亡くなったことに関係があるのかもしれません。
理由はよくわかりませんが、ケネス・ブラナーは、ポアロとカトリーヌの関係について、『オリエント急行殺人事件』以来、エピソードとして取り入れているので、次の作品で、すべてが判明するのかもしれません。
大英帝国の華やかさ
映像は、前作同様、クラシックで華やかさに満ちています。
ドレス、ホテル、クルーズ船、カルナック神殿など、エジプトの風景も、たぶんCGで補正されているにしても、観るものを魅了します。
ストーリーは多くの人が知っているにもかかわらず、この手の映画が好まれるのは、金持ちが金持ちらしい生活ができた時代であることが一因なのでは、と感じます。
リドリー・スコットが製作に加わっているので、映像は美しいですよ。
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