【東野 圭吾】 「天空の蜂」




今秋映画が公開される「天空の蜂 (講談社文庫)」読了。

監督は堤 幸彦、江口洋介、本木雅弘が出演という注目作です。


私が購入した文庫版の帯には「作家としての飛躍を目指した最大の勝負作」とあり、これはおもしろそう、と思って「ラプラスの魔女」と一緒に購入しました。



天空の蜂 (講談社文庫)
by カエレバ



Inernet of Things の今だから再読されるべき



これまた帯に「1995年に書かれたとは思えない!」とありまして、ある意味本当であり、一方ではやはりITの進化はこんなにもあるのか、と感じること多し、でした。

今風に言えば、本書はサイバーテロ、それもIOT(Inernet of Things)、モノのインターネットを狙ったテロを想定したミステリーです。

サイバーテロに関する詳細は一田和樹氏による「ファミリー・セキュリティ読本」「サイバーセキュリティ読本」に詳しいので、映画をご覧になる前に、ぜひお読みください。

なぜなら、映画化するにあたっては、1995年当時を再現するよりも、現代に置き換えたほうが緊迫感もあり、観る者の危機感もあおられると思うためです。

そんな風に映画を楽しむには、サイバーテロがどんなふうに行われるのかを知っていたほうが良いと思うので、ぜひ参考書として手に取ってください。


専門家が太鼓判を押したものでも巨大な地震がくれば壊れる


さすが、東野作品!と思わせてくれるストーリー展開でした。

自衛隊のヘリが奪われ、高速増殖炉もんじゅとおぼしき原発(新陽)上空でホバリング、燃料切れで墜落するぞ、というテロが発生し、これに対して、政府と原発関係者、警察が対応していく、という物語です。

東日本大震災の後の福島原発の事故を知っている私たちにとっては、すでに知っていることもありましたが、著者が本書を発表した当時の空気感はこんな感じだったろうな、と思い出しました。

しかし、阪神大震災直後という時期でもあったためか、作中にはこんなことが書かれています。
「専門家が太鼓判を押したものでも、巨大な地震がくれば壊れることが証明されたにもかかわらず、なぜ『新陽』は壊れないなどと断言できるのか」反対派の言い分は、この一点に集約されていたといってもよい。
これって、まさしく東日本大震災であらためて証明された形となりました。
しかも、対応を怠った人災、として。


技術者は最善を尽くす


一方、本書の中で、原発に携わる技術者が問いかけます。
「原発が大事故を起こしたら、関係のない人間も被害に遭う。いってみれば国全体が、原発という飛行機に乗っているようなものだ。搭乗券を買った覚えなんか、誰もないのにさ。だけどじつは、この飛行機を飛ばさないことだって不可能じゃないんだ。その意志さえあればな。ところがその意志が見えない。乗客たちの考えがわからないんだ。一部の反対派を除いて殆どの人間は無言で座席に座っているだけだ。腰を浮かせようともしない。だから飛行機はやっぱり飛び続ける。そして飛ばす以上、俺たちにできることは、最善を尽くすことだけなんだ。(以下略)」
これは、多くの技術者の本心でしょう。

福島原発事故当時、現場の技術者と、東電経営陣との意志の乖離が見られましたが、現場で実際に動かしている技術者は、自らの仕事に誇りを持っていると思うのです。

さらに、「いちえふ」にも詳しい記載がある、作業従事者の被曝量のごまかしも、当時からあったのようです。
休みをとっている他の作業者の外部被爆計器を借り、被曝量をごまかして仕事をしていたことも藤井は知っている。それを見て見ぬふりをしていたのは、雑賀のような作業者がいるからこそ、予定通りに仕事が完了するという現実があるからだった。
もし労災認定基準を法的限度量にしてしまうと、労働者たちのアラームメーターは鳴りっぱなしで、仕事にならないだろう。三か月で定期点検を終えることなど、到底無理だ。
ですが、これが原発の現実だったということでしょう。

本書では、原発を誘致する自治体の窮状が、様々な面から描かれています。

いちえふ」によると、被曝量はきちんと管理され、それこそ三か月も働くと1年間の基準を超えてしまう、ということです。
福島原発の事故が、原発で働く方々にとって良い面もあったのかもしれない、と、感じるくだりです。


原発が止まっても電力不足にならないことを知っていて、なおおもしろい


本書では、すべての原発の稼働をとめる、原発を破壊する、という要求が政府に対してなされます。

多くの国民が、そんなことができるのか、原発をとめて電力不足に陥らないのか、という不安感を持っている点が、ストーリーのおもしろさにもなっています。

しかし、2015年現在では、原発なしでもいけそうじゃない?という人々も増えているのではないでしょうか?

つまり、搭乗券は買いたくない、飛行機にも乗らないよ、という意思表示は大きくなってきているように感じます。


著者が、本書で描きたかったことは、著者略歴にある「生産技術エンジニアとして」の部分にあると思います。この表現は、本書以外には(おそらく)ありません。

現場でがんばる技術者の葛藤こそ、本書のテーマではないかと感じました。



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