政策論争のデタラメ


政策論争のデタラメ (新潮新書)」を読了。著者は証券会社のマーケット・ストラテジストという、通常この手の著者としては異色の存在です。
しかし、マーケット・ストラテジストという職業柄か、綿密にデータを読み込んだ上での内容で、非常に説得力があります。

たとえば環境問題とそれに関連する政策についての記述には、感心させられます。環境問題は一種の宗教のように形作られ、自らの生活を律することで結果が伴うと信じる人たちがいますが、本書ではそのようなことで解決できる問題ではないと、明らかにしてくれます。

温暖化の原因が二酸化炭素であると定義した上で、日本の場合、二酸化炭素の排出量が増加しているのは家庭であり、その主たる原因は世帯の増加であるとしています。確かにこの10年で単身世帯を含めた世帯数の増加が進んでいます。

私は仕事柄、大まかな数字は把握しているつもりですが、2000年当時の世帯数はおよそ4700万世帯でした。それがわずか5年後には約5000万世帯にまで増加しています。来年は国勢調査が実施されますが、この数字はさらに増加するでしょう。(総務省統計局 家族類型別一般世帯数

つまり、世帯数の増加が多くの家電利用へとつながり、家庭からの二酸化炭素排出量が増加しているのだそうです。これは説得力があります。ちょっと見回せば電気を消費するモノであふれかえっていますから。
そして、省エネを国民に強いることは結局「欲しがりません、勝つまでは」と同じ発想だと切り捨てます。もっと総合的なエネルギー政策が必要であるにも関わらず、諸外国の後塵を拝していると主張するのです。

さらに医師不足についても、勤務医を優遇できていない制度設計そのものが間違っていると言い切ります。開業医優遇の制度がこのまま続く限り、医学部の学生数を増やしたところで問題は解決しないだろうということです。
私も以前、全く違う視点で学生を増やしたところで根本的な解決にはならないだろうと書いたことがありますが、私の考えが本書により、一層鮮明になった感じです。

ほかに、教育問題、財政投融資と表裏一体の郵政民営化問題、官僚制度などに深く切り込んでいます。いずれもデータをきちんと踏まえた論理で大変よくわかります。

本書は、メディアを通じた情報がいかに粉飾されているか、また操作されているかを確認するサブテキストのような存在です。そういう意味で広く読まれて欲しい著作だと思います。

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