IAMAS Ubiquitous Interaction Research Group展「Hands On」

9月13日まで六本木AXISギャラリーで開催されていたIAMAS Ubiquitous Interaction Research Group展「Hands On」を観て来ました。
とても楽しい展覧会で、普通なら20分くらいで出てしまうところですが、壁に貼られたいろいろなデバイスのアイデアを1枚1枚読んだり、説明を聞いているうちに1時間あまりも滞在してしまいました。

ご存じない方も多いと思うので、この展覧会の開催主であるIAMASについて少々。
IAMASとは、「岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー」と、「情報科学芸術大学院大学」の2つの教育機関の総称で、平たく書くと県立大学のひとつとして位置づけられます。設立は2001年。
岐阜県でITと聞くと、官庁の関与を深く疑ってしまうのですが、やはり経済産業省の流れのようです。本体は「財団法人ソフトピアジャパン」で、中部エリアのIT拠点と位置づけられています。
(自分自身IAMASの存在を知らなかったので調べました。)

こういう政治的なことは置いといて、展覧会自体は本当に面白いものでした。
何より好感が持てたのは、学生と思しき皆さんが、一生懸命にデバイス(作品)の説明をしてくれることです。
他人に話しかけることは、昨今の大学生にとって最もハードルの高いことのひとつですので、なかなかできることではないのですが、おそらく指導されている教員の方が素晴らしいのでしょう、きちんと対応されておりました。
せっかく良い作品であっても、その良さを十分に伝えることができなければ、それは失敗です。その点をよく理解されていると感じました。
学生の皆さんも素晴らしいですが、私自身も実務教育を実践しているので、教員の方のご苦労がしのばれます。

IAMASのすごい点のひとつに、24時間365日、学生が自由に利用できる研究(学習・制作)環境が整っている点があります。やる気のある学生にとっては、これも魅力でしょう。

しかし、IAMASを調べる過程でヒットした岐阜県のペーパーによると、IAMASの予算削減が始まるようです。

IAMASの今後のあり方(2009年2月)
「IAMASの今後のあり方」の策定について(2009年2月)

上記2文書のなかで私が注目したのは、学校運営経費の項目です。この資料によると、

■IAMASの学生1人当たり経費(平成20年度予算(人件費含む)/学生定員)
アカデミー4,662千円

大学院大学10,512千円
■IAMASの教員1人当たり学生数(平成20年度学生定員/教員定数)
アカデミー6.0人

大学院大学2.2人

<参考>
全国の公立大学76校(平成19年3月)の学生1人当たり経費の平均値は、2,196千円
学部教員1人当たり学生数の平均値は、10.8人


つまりカネもヒトも多すぎる、という見解のようです。たしかに贅沢な大学ですね。
しかも県立大学であるため、これらはすべて県の財政で賄われるわけですから、何らかのリターンが無ければなりません。
しかし、卒業生は県外に出てしまって、地元企業に就職するなどの効果が薄いと嘆きます。

大学のコンセプトを考えれば、岐阜県に残って就職するような学生が集まるわけないじゃないですか。コンセプトが市場とミスマッチしている、ある種の事例としか思えません。

こういう事情を読むにつれ、展覧会を拝見してどうしてこういう方向なのかな?、と思ったことの背景にこういう事情もあるのか、とある意味納得してしまいました。

「ものつくり」は確かに重要だと思うのですが、ネットの世界はプラットフォーム競争になっています。
(このあたりは「ものつくり敗戦」をぜひご一読ください。)

結局プラットフォームを作り出し、世界的に利用される環境を提供した者や企業が大きな利益を生み出すのであって、そのプラットフォームに乗っかるビジネス(もの)では小さな利益しか生み出せません。
地元企業に就職してほしい、と思っている岐阜県の皆さんには申し訳ありませんが、そういうローカルな視点で運営していたら、高専とどこが違うんですか、と揶揄されてしまうのではないでしょうか。

今回の展覧会で残念だったのは、プラットフォーム的思考や、販売プロモーションの視点があまりない、という点でした。
次回に期待します。

コメント