日経産業新聞コラム「流行を読む」で一田 和樹さんにご登場いただきました





一田和樹
以前から、このブログのブック紹介で取り上げている作品の生みの親である一田 和樹さんに、日経産業新聞のコラム「流行を読む」にご登場いただきました。

一田さんが、カナダ在住ということで、メールでインタビューしています。
ここに全文を公開します。

より多くの方に、サイバーセキュリティを知っていただき、上質な一田作品に触れてほしいと思います。





これから注目される分野・サイバーミステリ

質問1
一田さんが描かれる小説のテーマを、主にサイバーセキュリティに絞っておられるのは、どのような理由からでしょうか。キャリア、趣味等と関係がございますか。

ご回答:
実はサイバーセキュリティに限らず、かなり幅広く書いています。

デビューする前、純文学では文學界新人賞、SFでは小松左京賞創元SF短編賞、一般エンタメではダヴィンチ文学賞の最終候補に残りました。

デビュー後も「いちだ かづき」のペンネームで講談社からファンタジーを二冊上梓しています。

技術評論社のWEBでは、コメディ小説とビジネス小説を連載していました。

ただし、サイバーミステリ小説を多く執筆し、刊行しているのも確かです。

私自身が過去にその分野の仕事をしていたということと、これから注目される分野なのに書き手が少ないため、出版社からの声をかけてもらいやすいことが理由です。


公開情報を原文で読む

質問2
小説のなかで描かれる不正アクセス等の方法について、どのように情報収集なさっておられますか。また、一般の方々がそれを知ることはできるでしょうか。

ご回答:
大きくは二つの方法を使っています。

ひとつは一般に公開されている情報の収集です。
英語と日本語の書籍、記事、ブログ、掲示板やSNSの情報を集めて整理します。

意外に思われるかもしれませんが、英文で公開されたサイバーセキュリティ関連の書籍やレポートの全文を読んでいる日本人は非常に少ない。

専門家でもほとんどの人が原文で全文は読んでいません。

きちんと公開資料を読むだけでも他の人が持っていない情報を仕入れられます。
この方法は一般の方でも可能です。

もうひとつの方法は専門家などから直接話をうかがうことです。

特定のテーマについてのこともあれば、全般もこともあります。
一対一のこともありますし、限られたメンバーしか集まっていない会合のこともあります。
こちらは、一般の方はなかなかやりにくいと思います。


リアリティを担保する査読

質問3
一田さんの小説は、すべて専門家の査読を受けておられますが、学術論文のように査読を受ける理由を教えてください。

ご回答:
技術などのリアリティを担保するためというのが一番大きいです。

変化の激しく、非常に広い範囲をカバーするテーマですので、専門家の目で確認していただいています。

幸いなことに、いままでは大きな変更の必要な指摘を受けたことはありません。


大衆化するサイバー犯罪と組織化された高度なサイバー犯罪に二極化

質問4
一田さんにはサイバーセキュリティに関するリアルな著書(「ファミリーセキュリティ読本」等)もございますが、いま一番、注目している不正方法、または今後増えてきそうな方法などについて、教えてください。

ご回答:
個別のサイバー犯罪の方法というより、枠組みそのものが変わってきていることが注目すべき点のような気がします。

誰でも簡単にできる大衆化し拡散したサイバー犯罪と、組織だった高度なサイバー犯罪のふたつに分かれつつあります。

前者は、マルウェア開発キットを利用したり、組織犯罪の末端になったりすることで、サイバー犯罪者大量生産時代がやってきたという変化です。

後者はサイバー空間での諜報戦と戦争が日常化した時代に突入したという変化です。

警察が対処できるのは前者のみで、後者は誰も止められません。

一般人からみると、ネットにつながるあらゆる場面で常に攻撃にさらされる時代に入ったことになります。
前者については注意することで避けられますが、後者については個人では避けようがありません。

金融機関からごっそり個人情報を抜かれてしまったら打つ手はありません。

そして嫌なことに今後は後者の攻撃が激化するでしょう。

マイナンバーやTポイントなど莫大な個人情報を保有するサービスが登場し、その被害規模も拡大するでしょう。

知らないところで自分の個人情報が盗まれ、ある日、突然銀行から「個人情報漏洩についてのお詫びとお願い」あるいは総務省から「マイナンバーに関する重要なお知らせ」という情報漏洩の通知が届く。

絵空事ではありません。

これらの変化と並行してガバメントウェアと呼ばれる政府謹製のマルウェアの配布が日本でも開始されると思います。

未然にサイバー犯罪やテロの徴候をつかみ、対処するという名目で監視システムが構築されるでしょう。
そして、そこからもまた情報が漏洩します。


スマホに重要な情報は登録しない

質問5
日本では、オリンピックなど国際的なイベントを控え、サイバーセキュリティに関するニュースが増えています。セキュリティ意識の向上のほか、日本人が市民として気にかけたほうが良いと思われることを教えてください。

ご回答:
最低限やっておいた方がよいことは、下記になると思います。

 ・Androidのスマホは使用しない。やむなく使用する場合は、信頼できるアプリだけ使うようにして、できるだけ個人情報や重要な情報を入れないようにする。パソコンなどとアカウントを同期させない。

 ・LINEやFacebookを使わない。やむをえず使う場合は、登録する情報に最新の注意を払い、同時に自分の知人が自分の個人情報を勝手に登録していないかも常にチェックする(自分の写真を友人が勝手にアップするのは日常茶飯事です)。

無償のインターネットサービスは自分の個人情報を商品として登録する代わりにタダにしてもらっているわけです。登録する個人情報が多いほど潜在的な危険度は上がります。

LINEやFacebookにはクリティカルな個人情報をそれを意識せずなにげなく書き込んでしまいます。このふたつではないにしろ、ツイッターや他のサービスにも同様の危険があります。

 ・Androidだけでなく全てのスマホに重要な情報は入れない。重要なサービス(銀行、証券取引など)は利用しない。

 ・アンチウイルスソフトあるいはそれに類するソフトを使う


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インタビューはここまでです。

コラムのほうは、本日発売の日経産業新聞をご覧になってください。



一田さんは、企業のオウンドメディアなどへ小説を提供されていたりします。
下記は、その事例です。

工藤伸治のセキュリティ事件簿番外編 箱崎早希と超可能犯罪の壁1
https://www.josys.jp/entertainment/security-saki20151106

一田和樹さんの公式サイト
http://www.ichida-kazuki.com/


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