コズミックフロントNEXT 「反物質 宇宙のロストワールド」


コズミックフロントNEXT反物質 宇宙のロストワールド」を観ました。

毎回録画して、必ず観る番組のひとつですが、久しぶりに会う人ごとに話したくなる内容だったので、ブログにも書いておこうと思います。


今回のテーマは反物質

反物質(antimatter)」なんて言われると、私的にはSF以外にはありえない設定、という感じなんですが、宇宙関係の皆さまにとっては、とっても大きな謎を秘めているんですね。

この番組の冒頭でも紹介されていた、ダン・ブラウン原作の映画「天使と悪魔」は、ご覧になった方も多いと思います。

スイスのCERN(セルン)で、1995年に、水素の反物質、つまり反水素が作り出されたことをテーマに描かれた作品です。


DVD2枚パック ダ・ヴィンチ・コード/天使と悪魔
by カエレバ


まず、反物質とは何か?

これは、物質の元素が、プラスの陽子にマイナスの電子、となっているのに対して、反物質では、マイナスの陽子にプラスの電子、と逆さまになります。

しかも、物質の元素の周りをまわる電子が、仮に時計回りに陽子の周りをまわっているとすると、反物質では反時計回りに回ります。

つまり、物質と反物質は正反対の、鏡に移った関係のようなもの、らしいのです。

ですから、物質と反物質が出会うと、対消滅、というものが起こります。

(+a)+(-a)= 0

式にすると、こんな感じです。


反物質の存在を初めて明らかにしたのは、ポール・ディラック、1928年のことだそうです。

ディラック方程式という、相対性理論と量子力学をひとつに合わせた式を導き出したときに、プラスだけではない、マイナスの解も存在することを発見したのだとか。


ポール・ディラック―人と業績 (ちくま学芸文庫)
by カエレバ

このディラックさん、日本にきて講演など行ったこともあり、最近の日本人のノーベル賞の受賞は、かつてこのような方々の薫陶を受けたことにあるのかもしれません。


さて、ディラック方程式について、番組では、次のように解説していました。

E² = 25 のとき、E=+5、-5

つまり、数学として、私たちも習った平方根の解のうち、プラスが物質、マイナスが反物質、ということです。


ディラックは、この発見の2年後にノーベル賞を受賞し、その時の講演で「反物質の世界があるかもしれない」と発言しました。

それ以降、物理学者たちが、反物質の世界か、その存在の証拠を見つけ出そうとしたのですが、結局のところ、反物質の世界があることはもちろんのこと、反物質そのものも見つけ出すことができませんでした。


これに対して、1960年代に、ソ連の物理学者アンドレイ・サハロフは、ビッグバンが起きたときに、物質と反物質が同時にたくさん作られる、対生成、という現象が起こったが、ほとんどは対消滅してしまい、物質だけが残った、という説を唱えました。


わが祖国―世界へのアピール (1975年)
by カエレバ


サハロフの計算によると、対生成で、物質が10億1個できるのに対し、反物質は10億個作られるのだそうです。

つまり、10億回の対生成と対消滅が起こり、1個の物質が残った、ということです。

たったひとつの元素が残るためには、10億の物質と反物質が消滅していて、残った元素が集まって、星となり、生命となっている、と思うと、とてつもなくすごいことだとわかります。


反物質の世界が存在しないのは、反物質が物質を完全に逆さまにしたものではなく、ほんのちょっとズレがあるためなんです。


物質と反物質は異なるもの、という証明のための実験のひとつが、日本で行われているT2K実験だそうです。

2002年にノーベル賞を受賞した小柴 昌俊先生チームが発見した、ニュートリノと、反ニュートリノ(今では反物質はけっこう気軽に作れるみたいです)を、茨城県東海村から発射し、岐阜県高山市にあるスーパーカミオカンデで観測する、というのがT2K実験です。

ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎 (集英社新書)
by カエレバ


いったい何を観測するのか、といえば、ニュートリノ振動によって、ニュートリノも反ニュートリノも、別の素粒子に変わることがあるのですが、この確率を調べるための観測なのだそうです。

この実験によって、今のところ、ニュートリノは6%反ニュートリノはそれ以下、という確率が出ているそうで、この実験によって、物質と反物質は同じものではない、ということが証明されそうです。

なんか、スゴイです。


スーパーカミオカンデ関係でのノーベル賞受賞は梶田隆章先生の例もありますから、これからも排出する可能性がありますね。


反物質を人工的に作り出し、物質との違いを見つけ出すことができるなんて、現実とSFが交差したような時代に、私たちは生きているのだ、と、この番組を観て実感しました。

再放送があったら、ぜひご覧になってみてください。


コズミックフロントNEXT 「反物質 宇宙のロストワールド」
http://www.nhk.or.jp/space/cfn/151008.html


コメント