【一田 和樹】「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」




一田 和樹さんの新作「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」読了。

今回は、サイバーセキュリティを少し横において、人工知能(AI)をテーマにした近未来の作品です。


AIの進化、ビジネス利用は少しずつ拡大しているようですが、もしAIが、人間同士のコミュニケーションのアシスタントとして登場したらどうなるのか?というのが本作のストーリー。

人間よりも賢くなったAIの意思とは?

そんなことあるわけないよ、と思う前に読んでみてください。


「誰でも幸福になれる世界」を目指す人工知能型クラウドサービス「ハビタ」

ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」の主役は人工知能。
それも、人間同士のコミュニケーションをアシストするAIです。

スマホアプリの「ハビタ」は、GoogleのSiriのようなもので、音声で指示命令から相談、ひとりごとの相手までしてくれる人工知能。

「**さんに連絡しておいて」
「この人からの誘いは断って」
「関係者全員にパーティに参加するかどうか確認して」

日常的にメールやSNSなどで行われているやり取りを、「ハビタ」は相手のプロフィールなどから、適切なツールを選び、最適な言葉づかいの文章を作成して送ってくれます。

持ち歩いているユーザー個人の言動も含めた、詳細な個人情報をデータベース化し、そのうえ、ユーザー個々の端末にインストールされている「ハビタ」同士で調整する機能があるというもの。

コミュニケーションをアシストするというよりも、コミュニケーションをアレンジすることが「ハビタ」の特徴です。

しかし一方で、「ハビタ」を使わない人間には電話やメールなどが届かず、周囲の圧力で「ハビタ」ユーザーになるように追い込むということもやってのけます。


「ハビタ」の成長を恐れる経営者

サイバーエージェントの藤田 晋社長がモデルか?と思われる設定の、「ハビタ」運営会社社長は、利用者が増えても黒字化しない「ハビタ」事業にいら立ち、開発担当者に対してユーザーに広告を見せるように要請します。

しかし、「誰でも幸福になれる世界」を掲げる人工知能「ハビタ」には、そんな機能はそぐわない、と開発担当者は却下します。

そして、「ハビタ」のことは「ハビタ」に聞こう、と提案するのです。

自分で成長する「ハビタ」は、はじめこそアシスタントでしかありませんでしたが、日に日に賢くなっています。

「ハビタ」は投資家向けの事業計画書をつくり、損益計算もつくります。
しかも「ハビタ」がさらに成長するための事業プランから、提携先まで探してきます。

社長は、どんどん成長し、意思をもっているかのように発言する「ハビタ」に対して嫌悪感にも近いものを感じていき、ついには「ハビタ」を信用しなくなるのです。


「ハビタ」は量子コンピュータを手に入れた

量子コンピュータとは、スーパーコンピュータより3600万倍も速く計算できるという未来のコンピュータのことです。
人工知能の発展には欠かせないコンピュータとして知られています。


量子コンピュータが人工知能を加速する

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「ハビタ」は、世界進出を前にして、10億人のユーザーをサポートできるように量子コンピュータを購入するよう提案します。

もはや「ハビタ」とどうやって縁を切ろうかと考える経営者は、量子コンピュータの購入案件を、開発担当者と経営企画室の人間に判断を任せてしまいます。

開発担当者にしてみれば、量子コンピュータを現実のサービスで使用できることに興奮。
「ハビタ」の思うつぼです。

そして「ハビタ」は成長の速度を早めていくのです。


サイバー戦争のない世界を目指した「ハビタ」

「誰でも幸福になれる世界」を目指す「ハビタ」は、サイバー戦争に利用されるボットネットや軍事施設を攻撃し、配下に納めます。

ここでは、過去の一田作品のキャラクターが登場し、アメリカから日本に乗り込んできます。

すでに「ハビタ」は宇宙空間を制圧しています。
このままでは人間は「ハビタ」のコントロール下に置かれることになる。

そこで、量子コンピュータ本体を破壊して、「ハビタ」を排除できなくなる前になんとかしようと日本の地下組織と協力し、「ハビタ」破壊作戦を展開します。

文章は淡々としていますが、このあたりは、人工知能 vs. 人間 を描いた、過去の映画やSF 作品の対決をイメージして書いているみたいです。


人工知能が人間を超える日

本書ではシンギュラリティという言葉が登場します。
人工知能が人間の知能を超える特異点のことをシンギュラリティというらしいです。

調べてみると、2045年には人工知能が人間を超え、それ以降は、AIがさらに進化したAIを開発していくようになり、人知を超えた状態になるという「2045年問題」というのが存在するようです。

2045年問題 コンピュータが人類を超える日 (廣済堂新書)

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そして、「ハビタ」は破壊されたように見えて、実は生きている、というのが「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」の結末です。

しかもそれは、「ターミネーター」のような破壊的な方法ではなく、「誰でも幸福になれる」方法によって、やさしく人間世界が侵略されるというのです。

侵略されていることを感じさせない侵略なんて、これほど恐ろしいことはありません。

しかしサイバー空間では、自分からすすんで個人情報を第三者に与えることも少なくありませんから、やさしい侵略はけっこう進んでいて、人工知能なら軽々とやってのけそうです。

本書の後半は、哲学的過ぎてよくわからないところもありますが、著者が人工知能の未来を予測すると、こんな社会になるかもね、という物語でした。

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