「ものつくり敗戦―「匠の呪縛」が日本を衰退させる 」


ものつくり敗戦―「匠の呪縛」が日本を衰退させる 」 を読了。

あちこちで紹介されていたので手にとってみたのですが、私にとっては”衝撃”でした。 著者は制御システムなどを研究されてきた工学博士の木村英紀氏。

本書を読んで初めて知ったことのひとつが、日本は第3の科学革命に乗り遅れた、というより、いまだ乗ってさえいないのではないか、という指摘です。

ここで書かれている第3の科学革命とは、要するにソフトウェアです。モノではなくソフトウェアを創出するための素地すらない、というのです。

文科系の学生が、SEをはじめとするソフトウェアを開発する職業に就く、またはそれらの企業に入社する奇妙さの回答がここにありました。

詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、今やシステム周辺企業は3K職として日本では定着してしまっていますが、それもそのはずです。

基礎的な数学さえおぼつかない状態で、ソフトウェア開発なんてできるわけがありません。

また私の長年の疑問であった「なぜ日本ではプロジェクトマネジメント力が弱いのか」という点にも回答がありました。

本書によると、システム工学が先に述べた第3の科学革命の中心に当たるようなのですが、米国のアポロ計画を事例にとってプロジェクトマネジメントについての考え方が示されています。

すなわち大きなプロジェクトにおいて、

1.参加者全員が計画の全体を知り、その進行状況を把握することの重要性
2.その際、技術を普遍的な知的能力、もしくは部品とみなし規格化と互換性を進めていく

ことこそがプロジェクトマネジメントの極意のようです。

私自身の経験では、日本におけるプロジェクトマネジメントは1のみが強調され、2が無視されていると思います。

1は家を建てるようなもので、土台ができなければ次の工程に進むことができない、という物理的な理由があるため、誰しも理解しやすいものです。
したがって、私がプロマネとして優秀だなぁと思った方のなかには、大学で建築設計をやってました、という人がいることに納得するわけです。

しかし2になると、さらに一歩進んで、目に見えないシステムも含めた全体最適解を求めるようなものになります。

IT業界では当たり前のことですが、無料で利用者の多いプラットフォームをベースにしたほうがビジネスの拡張性が高く成功の可能性が高い、という常識を指しているのではないかと思いました。
最も経産省・総務省あたりはこの辺に無頓着のようですが・・・。

日本に優秀なプロマネが存在しない最大の理由は、実はこの2にあると思います。

建築、特に家を建てる、といった行為において、棟梁と呼ばれる存在(すなわち匠)がその家の出来を左右する、という意識が根強いことを思い起こせば、実際のプロジェクトにおいても同様の選択が行われ、全体最適解が求められていないほうが多い、という現実に立ち返ります。

経験的にも実際のプロジェクトの現場において情実による妥協がいかに多いことか。
第3者としてアドバイスする立場なので私も当然ながら最適解を述べるわけですが、まま現場からの突き上げや調整といったことを経て瓦解します。

最近読んだ中ではダントツのオススメですが、ビジネスパーソンはもちろんのこと、高校生・大学生に読んでほしい本です。その理由は、如何に数学が大切なものであるか、について考えさせられるためです。

私はこのブログにおいて度々、数学こそが大切である、と書いてきました。学生の論理的思考の薄っぺらさや、数値の管理能力など、あまりにそのレベルが低いためです。
中には四則演算の基礎さえ理解していない者すらいます。

彼らは文部省の被害者です。
数十年にわたって数学教育をないがしろにした結果が今の学生です。著者によると日本の数学教育は30年にわたって後退しているのだそうです。

ハタチすぎればタダの人、と本書で評されている日本はGDPは世界第2位であるかもしれませんが、その内実はBRICSにも手が届かない2流国なのだと、当の日本人が意識していないことのほうが私は問題だと思います。

そのGDPも、今後は預貯金の取り崩しによって維持されていくのだと改めて認識すべきでしょう。



ものつくり敗戦―「匠の呪縛」が日本を衰退させる (日経プレミアシリーズ)

木村 英紀 日本経済新聞出版社 2009-03
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