桜宮の物語

チーム・バチスタの栄光」を読んでから、一気にシリーズを読みました。ただし文庫版だけで、春に映画が公開される「ジェネラル・ルージュの凱旋」までですけど。


最初に読んだのは「螺鈿迷宮 」 です。これは一種のスピンアウトかもしれませんが、この作品があることで東上大学だけの物語に終わらない深みが出ています。ファンタジーっぽいところもあるので好き嫌いはあるかもしれませんが、外してはいけません。
ただし、読む順番としては「ナイチンゲールの沈黙」 を先に読んだほうがいいと思います。というのも、「螺鈿迷宮 」 は、時系列的には「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラル・ルージュの凱旋」の後にあたるためです。

主人公は医学部で留年を続ける学生。いきなり麻雀シーンから入るので、時代は一気に20年くらい昔に戻った印象があります。今どき雀荘に学生がいるんだろうか???と疑問に思いつつ、全く知らない麻雀用語をかき分けかき分け読んでいくと、怪しい病院への潜伏へと物語が進みます。そこでようやっと見たことのある名前が登場します。謎の看護師”姫宮”です。「チーム・バチスタの栄光」では白鳥の部下として名前しか出てこなかった人物です。違和感はありつつも、引き込まれる物語でした。

続いて手にしたのが「ナイチンゲールの沈黙」です。これは歌のうまい看護師が登場する、東上大学病院が舞台の物語。歌によって具体的なイメージを伝えることができる能力を持った看護師が不思議な魅力でストーリーを引っ張ります。ただし、こちらは実際に殺人事件が起こってしまいますし、この看護師が「螺鈿迷宮 」で登場する病院出身ということで、順番を逆に読んでしまった私には、結末が読めてしまってちょっと残念なことに・・・。

ちなみに、海堂作品の中で私がうんざりするのが”あだ名”です。タイトルに使うくらいなので結構なこだわりがあると思うのですが、”迦陵頻伽(かりょうびんが)”なんていう時代錯誤なあだ名が登場するし、いちいち病院関係者のあだ名が説明されていたり。こういうのって必要なのか、それとも病院ではあだ名が重要な位置を占めているのか、そもそもそういう世界観の設定なのか、私にはわかりません。ついつい「だからこれっていつの時代なの!?」と読みながらつっこんでたりします。


最後は「ジェネラル・ルージュの凱旋」 です。こちらは救急医療チームの話。お金のかかる救急医療を支えるために不正に手を染めてしまった”将軍”の話です。
ここでは田口・白鳥コンビが活躍しますので、この二人が大好き、という方はいきなりここに飛んでしまったほうがいいかもしれません。先に紹介した2作品は田口・白鳥密度が薄いので、2人のインパクトが欲しい方には物足りないかもしれません。ただしストーリーは「ナイチンゲールの沈黙」とパラレルな関係にあるので、どちらも読んだほうが楽しめます。
私が「こういうのあるある」と思いながらわくわくして読んだのが、エシックス・コミティとリスク・マネジメント委員会でのやり取りでした。特にエシックス・コミティでの不毛なやり取りには一種の感激を覚えたほどのリアルさです。実際の現場で作者がこういう苦労をしているんだろうなぁ、という同情さえ沸いてきます。
ただし、リスク・マネジメント委員会での黒崎教授のようなかっこいい発言は、実際には夢のまた夢だと思いますけど。

作者は医療現場の硬直性や根強い既成概念、医療制度の不備や厚生労働省の怠慢などをとにかく盛り込んで作品を構成しています。しかもわかりやすくて丁寧に。エンターテイメントとしての質を保ちながら、これらの情報を盛り込む筆力には脱帽です。この小説を通して身近な医療が変わることを期待してます。

そういえば、つい最近レセプトのオンライン化に対して、医師たちが訴訟を起こしました
リンク先が朝日新聞なので、消えてしまうことを前提に記事を引用すると、
2011年度から原則義務化される診療報酬明細書(レセプト)のオンライン化をめぐり、全国35府県の医師・歯科医師計961人が21日、国を相手に、オンライン化の義務がないことの確認と1人あたり110万円の損害賠償の支払いを求める訴訟を横浜地裁に起こした。
訴状によると、原告側は、オンライン化に伴って新たなコンピューター設備の購入が必要になるなど開業医の負担が増し、廃業に追い込まれる可能性があると主張。「(医師の廃業は)国民の生存権につながるもので、営業の自由にとどまらない重要性がある」と訴えている。
レセプトは、医療機関が健康保険組合などに提出する医療費の請求書。これまで紙やフロッピーディスクで提出されていたが、事務の効率化などを目的に08年度から400床以上の病院でオンライン化され、11年度以降は小規模を除く全医療機関に義務づけられる。
というものです。
詳しい情報は全国保険医団体連合会にも掲載されています。
これによると、この義務化は厚生労働省の省令でしかないもので、そもそも法律として有効なのか、という議論があります。しかもクラウド・コンピューティングの時代に、オンライン請求専用のパソコンを買わされ、接続など初期費用に200万から300万もかかるという代物です。このシステムの開発に13億円も使っているのでここまで高くなってしまっているんでしょうね、きっと。
このままいくと総務省の住基ネットの二の舞という感じがします。
今まではあまり知られていませんでしたが、今回の訴訟でメディアも取り上げざるをえなくなるでしょう。