【Amazon Prime】『犬王』

犬王』観ました。

野木亜紀子さん脚本のアニメ、そしてミュージカルです。


劇場公開時に「観に行こうかな、どうしようかな」と迷った作品でした。

結局やめたのですが、配信で観て正解といえば正解。

しかし、やっぱり劇場でしっかり観たい!と思う作品でもあります。

1時間37分という時間にコンパクトにまとまっていますが、情報量が多くて2時間以上の大作のようにも感じます。




平家物語と足利義満

物語の冒頭は、源平合戦の壇ノ浦からはじまります。

三種の神器のひとつ、草薙剣(くさなぎのつるぎ)を探している足利義満は、壇ノ浦の海人に探索を持ちかけ、成功するのですが、このとき、草薙剣によって父は死に、息子は盲となります。

この盲となった息子が友魚であり、のちに琵琶法師となって友一、友有と名を変えていきます。

名前を変えると亡霊は相手を探せない、というのも、この物語を理解するポイントのひとつです。

さて、今では書物として読むことができる「平家物語」ですが、足利義満の頃は、違っていたようです。

調べてみたら、足利義満の時代には、琵琶法師がギルド(職人組合のようなもの)を形成し、口伝の「平家物語」は民衆から神話的な扱いをうけていたようです。

そこで、足利幕府は、この口伝の「平家物語」を管理し、正典となる物語を定めます。

そして、『平家物語』は国家の歴史として定められることとなりました。

当然ながら、琵琶法師がそれぞれ独自の物語を語ることは禁じられます。

これが、『犬王』をめぐる時代背景であり、独自の物語を続けようとした琵琶法師と、それを表現しようとした猿楽師・犬王の物語なのです。




アニメならではの情報量

実はこのブログを書く前に、『犬王』を4回観ました。

最初は、ながら視聴でも大丈夫だろう、と思っていたのですが、ちょっと目を離すと分からなくなってしまいます。

ストーリーを理解するために2回、細部を楽しむために2回観たことになります。

それだけ、現代人と琵琶法師、猿楽(能楽)の世界は遠いということなのかもしれませんが・・・。

アニメということもあり、画面に描かれている情報量の多さに追いつくにも、少々苦労しました。

最初に書いた通り、壇ノ浦に足利幕府の役人がやってくるわけですが、丸に二つ引きの家紋を掲げています。

これは足利家の家紋であり、幕府を示しているのですが、そういう背景については一切説明がありません。

また、等持院も登場します。

こちらは金閣寺近くにある寺院で、足利歴代将軍の像がずらりと並ぶ、足利家の菩提寺です。

行ったことがある人は、すぐにわかると思います。

そして、かろうじてわかるのは、「平家物語」に関連したストーリーであること。

なんの基礎知識もないと、難解なアニメであり、ミュージカルなのだと思います。

というわけで4回観たのですが、もっと観なおしたいと思う作品です。

すごく好きかも。



犬王とは?

調べたところ、実在した能楽師のようです。

足利義満は、はじめて京都の今熊野(いまぐまの)で猿楽能をみて、観阿弥・世阿弥父子を後援するようになります。

その後、観阿弥が亡くなると、ひいきにされたのが近江猿楽の比叡座の犬王だったようです。

その犬王の「天女舞」を、自らの芸として取り入れたのが世阿弥であり、系統のちがう大和猿楽で最初に「天女舞」を舞ったのも世阿弥であったようです。

足利義満の寵愛を失って必死だったのかもしれません。

このあたりについては、論文がありますので、詳しく知りたい方は論文をお読みください。

「天女舞の研究」竹本幹夫著

つまり、『犬王』は、実際にあった出来事をベースにした、ファンタジックなアニメーションであり、ミュージカルであることがわかります。




ミュージカルの名作映画を思い出す

犬王』がファンタジックな展開となるのは、比叡座の当主で、犬王の父による呪いというか、恨みの気持ちなのかが原因で、犬王は平家の亡霊たちの「呪(しゅ)」を受けて生まれ落ちたことでした。

人間でありながら、身体は異型なのです。

しかし、能楽を舞うことで、平家の亡霊の「呪」が解き放たれ、人間の身体へと修復されていくのです。

この過程を語り歌うのが、冒頭に書いた友魚・友一・友有であり、足利幕府が決めた「平家物語」ではない、異端を語る琵琶法師なのです。

友魚・友一・友有と犬王は盟友であり、友魚・友一・友有なくして犬王はないという関係でもあります。

しかし、異端の琵琶法師は取り締まられ、ついに友魚・友一・友有は、首をはねられます。

犬王は、友魚・友一・友有を救おうとしますが、結局は足利義満の寵愛を受けることを選ぶのです。

友魚・友一・友有が歌い語る内容をきちんと理解しないと、『犬王』を観たことにはならないと思います。

そういうわけなので、ながら視聴はできません。

ミュージカルなので、脚本でいうとト書きにあたる部分が、友魚・友一・友有の歌となって表現されているようです。

そして、友魚・友一・友有の歌は、現代の野外コンサートのような熱気を大衆にもたらします。

このあたりは、音楽好きな人には、よく理解できると思います。

わたしは『犬王』をみて、なぜかミロス・フォアマンの『ヘアー』を思い出しました。

1979年制作のミュージカルで、反戦映画という位置づけです。

そして、何度か観ているうちに、このダンスはマイケル・ジャクソンっぽいな、と感じて『This is it』を思い出したり。

犬王』は、ダンスと音楽が融合していて、アニメかCGでしか表現できないような内容でもあるので、とても触発されます。

ダンスと音楽が好きな人には、おすすめの映画と言えるかもしれません。



ラストは・・・

物語のラストは現代。

600年もの間、亡霊となってさまよい続ける友魚・友一・友有を、犬王がやっと見つけ出します。

ふたりは、出会った頃の少年にもどり、歌い踊るシーンで映画は終わります。

ラストは感涙です。

とはいえ、4回目でやっと涙なのでした。

野木亜紀子さんの脚本は、原作を超えてくる作品が多いと思うのです。

それは無駄な口上がほとんどなく、本筋をコンパクトにまとめているからではないかと思います。

それだけに、何度も観ないと理解できない、ある種の「考察」を、観るものに求めているようにも感じます。



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