【一田 和樹】「内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」




内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」読了。

先日、仕事で帰国していた一田和樹さんと飲み会やりました~(^O^)/
渋谷の日本酒のお店で、総勢6名でワイワイ。
楽しかったです。

内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿 (集英社文庫)

一田 和樹 集英社 2017-11-17
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by ヨメレバ

こちらは一田作品の最新作にあたると思いますが、「Web集英社文庫」で2016年8月~2017年5月に配信された「珈琲店マダムシルクのサイバー事件簿」を改題し、加筆・修正したというものです。

著者のあとがきには、初めての連載、はじめてのボーイズラブ(BL)ものという、初めて尽くしだったと書いてあります。


サイバーミステリというより恋愛もの

内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」は、サイバーセキュリティに関する事件が絡んではいますが、全体としては恋愛ものという色合いが強めです。

ドラマ「相棒 season16 #7」でもダークウェブが事件の中核に登場するほど、急速に日本でもサイバー犯罪の奥深さが知られるようになっていますが、本書も参考書として読まれてしまいそうな内容です。

とはいえ、恋愛ものの色彩が強いので、描かれている事件もわかりやすく、いかにも大学生がひっかかりそうな犯罪として描かれています。


投資詐欺と監視アプリ

監視アプリは、パソコンサポートの現場でも使われているものが登場します。

「お客さまのパソコンの画面を、こちらでも拝見して、遠隔操作ができるソフトをインストールしていただけませんでしょうか」

パソコンが苦手な方で、サポートセンターに電話して、こんな提案を受けたことはありませんか?
そして、これが監視アプリとして利用できることをご存じでしょうか?

10年以上前から存在すると思いますが、パソコン操作を説明しても操作できない人を助けるためとはいえ、怖いな、と感じた記憶があります。

この監視アプリが、本書には登場します。

そしてもうひとつが、ダークウェブを運営するグループが行う投資詐欺です。

投資詐欺の典型が、集めたお金を投資利回りに合わせて配当金として支払う、というポンジ・スキームです。
投資はしておらず、配当金には他の出資者の支払ったお金が使われます。

この投資詐欺を大規模に行い、大学生には会員獲得のアフィリエイト広告を出させます。

しかも、金融情報サービスとして、世界各国の銀行や金融情報をメルマガとして配信し、そのなかにセキュリティ情報も入れます。

銀行がサイバー攻撃を受けて停止
銀行口座から金が盗まれた

すでに現実に起こっているサイバー事件です。

しかも、「内通と破滅と僕の恋人 珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿」では、ダークウェブの運営者がこの投資詐欺をおこなっていますから、サイバー事件も自分たちの顧客(ダークウェブから犯罪キットを買っている)が行ったサイバー攻撃の情報をメルマガに書いてしまうという、究極のマッチポンプ!


サイバー犯罪は個人が誰でもできるようになった

一田作品では、「サイバー犯罪は誰もが手軽に行うことができるようになった」ことが、さまざまな物語として語られています。

本書は、その現実の一端を、軽く読めて楽しめるエンターテインメントに仕上げたものと言えましょう。

昨年4月のインタビューでも、「大衆化するサイバー犯罪と組織化された高度なサイバー犯罪に二極化」している、と指摘しています。

日経産業新聞コラム「流行を読む」で一田 和樹さんにご登場いただきました


軽く読めて、楽しめてしまうくらいに、サイバー犯罪が一般的になってきていることを感じさせる物語です。

BLものとして読むか、それともサイバーミステリとして読むか。
あなたはどちらにしますか。


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