【磯田 道史】「天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災」





いまや日本史の伝道師として、NHKはもちろん民法での露出も多い、磯田 道史 先生の「天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災」読了。

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

磯田 道史 中央公論新社 2014-11-21
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by ヨメレバ


フジの27時間テレビに出演されていた磯田先生の参考図書として紹介されていて、さっそくAmazonで購入した次第。
歴史を変えた天災から、防災について読み解いたものです。

災害時の日本人の行動は、地震によってDNAに刻み込まれたものだという人もいるくらい、日本人と天災は切ってもきれないもの。
学術研究書でもある本書が、10万部を超えるベストセラーになったというのも、それだけ身近な話題であるということではないでしょうか。


歴史を変えた天災とは?

豊臣秀吉が徳川家康を滅ぼそうと戦争準備をしていたところに、日本海の若狭湾から太平洋の三河湾まで多大な被害を与えた天正地震(1586年)がやってきます。
この地震が発生したことで、徳川家康は命拾いをしていると指摘しています。

秀吉軍が大軍で攻め滅ぼそうと、兵糧もたっぷりと準備していたわけですが、兵糧を準備していた城が地震で壊滅してしまいます。

この地震がなければ、秀吉のまえに家康は滅んでいた可能性が高い、というのが磯田先生の説です。

しかも、秀吉にとってまずいことには、家康を滅ぼすことはいったんやめて、朝鮮出兵(1592年から)をしてしまったことです。

天正地震(1586年)は大変な被害を出した地震で、M 8クラスの地震が3つ以上、同じ日に立て続けに発生した可能性も指摘されているほどなのです。
巨大地震には津波がつきもので、若狭湾での被害はとくに甚大だったようです。

そんな地震があったにもかかわらず、わずか数年で朝鮮出兵です。
秀吉への不満が高まる中、1596年に伏見地震が発生します。
この地震は3つの地震が連動したものと考えられています。

9月1日(文禄5年閏7月9日) 伊予地震
9月4日(文禄5年閏7月12日) 豊後地震
9月5日(文禄5年閏7月13日) 伏見地震

このように天災が連続して発生すると、「天人相関説」から、秀吉は天下人としてふさわしくない、と主張する人たちが出てきてもおかしくありません。

実際に秀吉が亡くなると、朝鮮出兵は取りやめになり、家康が台頭してきます。


津波・高潮 海の怖さがしみじみ伝わる

磯田先生が、災害や防災にかかわる古文書を収集しはじめたのは、まだ10代のころ。
ご自身の母方の家系が住まう徳島県の牟岐という場所が、津波に何度も襲われた場所であり、磯田先生のお母様も2歳のときに南海地震に出くわし、津波から避難したのだそうです。

ご自身のルーツに深くかかわる地震と津波。
これが、先人による天災被害の記述や、防災に関する記述を収集するきっかけとなっています。

今なら、ブログに書かれた体験談や聞き書きを、キーワード検索で集めることは容易いでしょうが、20年以上も前から古文書を丹念にコピーして保存してきたというのですから、強い思いがなければ続けられることではありません。

本書で紹介されているなかでも、津波や高波、溜池決壊などの水の被害にあった人たちの証言は、時代を超えて胸に迫るものがあります。

共倒れになるならと我が子を波間に突き放した話、しっかりと身体に我が子を縛っていたのに津波でさらわれてしまった母の話など、生き残った者の心の傷を思うとなぐさめる言葉が見つかりません。

東日本大震災でも、津波被害の映像や証言は、何度見ても聞いても、心が揺さぶられます。しかし、この記憶があるからこそ、磯田先生が収集した証言が生々しく迫ってくることもまた事実なのです。


随所に先人の知恵が

古文書に書かれた先人の知恵を、現代の防災に生かそうという意図が明確に著された本書には、随所に防災アイディアがもりこまれています。

おりしも今朝のNHKでは、「東海地震 予知前提の情報取りやめへ 防災対策が転換」というニュースが報道されていました。

NHKによると、
「東海地震」は、南海トラフで起きるマグニチュード8クラスの巨大地震の一つで、国は、直前に予知できる可能性があるとして、39年前の昭和53年に「大規模地震対策特別措置法」、いわゆる「大震法」を制定し、予知を前提に防災対策を進めてきました。
この東海地震について、有識者で作る国の検討会は先月、社会活動や経済活動を大幅に規制する「警戒宣言」の発表につながるような確度の高い予測は「できないのが実情だ」などと指摘しました。
これを受けて国は、予知を前提とした東海地震の情報の発表を取りやめる方針を固めたことが関係者への取材でわかりました。
年内にも南海トラフ全域の地震活動などを評価する情報を新たに作る見込みです。
と報道されています。

法律で定められたような確実性の高い余地は無理!
ということを公式に認めたということでしょうか。

いっぽうで、不確実性は残るものの、確度の高い予知情報というものもわかってきています。

たとえば、地震が発生する地域の上空には電子が増えるのだそうです。
これは、京都大学の先生が研究なさっていて、マグニチュード8以上の地震の場合、電子数が増えはじめてから1カ月以内に大規模な地震が発生するらしいのです。

問題は、パソコンの処理速度ではすごく時間がかかること。

膨大なデータを迅速に処理できるスーパーコンピュータなら、予知が可能になる、ということのようです。お金が必要ですね。

そして、この研究には、ケイオプティコムがお金を出しているようです。

電子数増減で大規模地震予測 ケイ・オプティコムと京大が研究
http://www.sankei.com/west/news/170703/wst1707030095-n1.html

民間の、しかも地震学者ではない研究者が地震予知に一歩踏み出し、それなりの成果を出していることが、予知前提の情報取りやめへと進んだ原因かもしれません。


いずれにせよ、不確実性が高くとも、地震の前兆、津波の前兆を知りたいと、誰しも思うところです。

それを信じるか信じないか、そして逃げるか逃げないかは、磯田先生も書いている通り、「家族の性格や、生い立ち、価値観」によるのだと思います。

日本の地震研究にも新たな一歩が示されそうな今日、この「天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災」のレビューを書いていることに、なにか不思議なものを感じます。


地震の社会史―安政大地震と民衆 (読みなおす日本史)

北原 糸子 吉川弘文館 2013-03-01
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