【石黒 耀】 富士覚醒



石黒 耀 「富士覚醒」読了。

初出のタイトルは「昼は雲の柱」です。

先日の「死都日本」に続いての石黒作品です。


富士覚醒 (講談社文庫)
by カエレバ



本書は、ズバリ、富士山が噴火したら、という災害シミュレーション小説です。
富士山の噴火のなかでも、最悪のことが起こったら、どういう災害に見舞われるのか、が描かれていますが、ストーリーのアクセントになっているのが、徐福伝説です。





徐福と日本神話の神々
by カエレバ


徐福とは、中国の始皇帝に命じられて日本に不老不死の薬を探しにやってきた、という人物です。
この徐福の墓が、富士山麓で発見される、というところから物語は始まります。

しかし、そこは開発地域。
地元の有力者が、ハザードマップを書き換えてまで開発を進めているのです。

こんな事情から、物語は助走を始めるのでした。


死都日本」は、ハラハラするスピード感のあるストーリー展開でしたが、本作には、残念ながら、この手のスピード感はありません。

むしろ、必要があるのかな?という印象を持つ場面も多くあって、富士山の大噴火ぐらいでは、日本が存亡の危機には陥らない、ということを示しているかのようです。

とはいえ、興味深い話もありました。

たとえば、宝永噴火の際に、幕府が救済資金として大名や旗本から百石あたり二両、計49万両を集めるのですが、このお金を、幕府は大奥の改装資金としてほとんど使ってしまいます。
実際に被災地に届いたのは、わずかに十万両だったのだそうです。

これって、どこかで聞いたような話ですね。

そこで、伊奈半左エ門という関東郡代が、独断で、被災地の困窮を救うべく、幕府のコメを被災民に分け与えたのだそうです。

やっちゃいけないことをやっちゃったので、この伊奈半左エ門は罷免されるのですが、被災地は彼に感謝して、伊奈神社を建立したのだそうです。


須走の町と伊奈神社
http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/sbosai/fuji/wakaru/011.html


ほかにも、地震の名称によって、首都圏の人々に間違った情報を与えて、義援金を本来の被災地ではない場所が獲得する、といったことなど、大きな災害にはつきものの、お金と政治の話が、あちこちにまぶされています。


また、「死都日本」では説明不足の感があった、火山神として古事記の神々を読み解く作業が、本書では十分に行われています。


しかも火山神には2種類あって、噴火神と鎮火神とあり、それらが相互に影響しあっている、というのです。
この点は、なるほど~、と思って読みました。


富士山の噴火について詳しく知りたい方は、ぜひとも手に取っていただきたい小説です。



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