【久保 俊治】 「羆撃ち」


羆撃ち (小学館文庫)」を読了。

春先にいただいたのですが、しばらく手につかず、大学に通う行き返りでやっと読み終わりました。

こんな風に書いてしまうと、読むのがそんなに苦痛なのか?と思われてしまいそうですが、いえいえそんなことはありません。


著者は、大学卒業後、プロのハンターとして生計を立てることを決め、北海道の大自然と向き合った方です。

自然と同化しているかのような目線やにおい、色などが鮮やかに描写されていて、その文章を味わうのに時間がかかった、というほうが正しいと思います。


また、ご自身が育てた猟犬フチに対する教育や、一緒に狩りをする様子など、著者ならではの深く鋭い洞察もすばらしく、著者は生来、観察眼の鋭い研究肌の方なんだろうな、と感じました。

著者の琴線に触れることができれば、素晴らしい読後感が得られると思います。


とはいえ、私自身が書店でこの本を手にするか、と問われれば、まずない、と思います。

タイトルから受ける印象は、狩猟ですから、血なまぐさくてグロテスク、というものです。

しかし、本書をどんなに読み進めても、血なまぐさい感じも、グロテスクな感じもしません。

むしろ崇高で静謐な空気を感じるのです。

映画でいえば「もののけ姫 」の一場面で、大シカの神様が登場するシーンがずっと続いている感じとでも表現すれば良いのでしょうか。


一方で、色彩は豊かです。

視力が3.0くらいの人が、山歩きをするとこういう風に見えるのかもしれない、と感じるくらいに明快で鮮やかな印象を読む者に与えてくれます。


本書はドキュメンタリーでありますが、読後感はどこかファンタジーにも通じます。

私は、本書をいくつかのストーリーに分けて、アニメーションで見てみたいと思いました。

それも、ロシアや東欧で作られていそうな、切り絵のような、動きがなめらかではないアニメーションです。


羆撃ち (小学館文庫)

久保 俊治 小学館 2012-02-03
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