完璧な顧客サービス

昨日はとても示唆に富む記事を読みました。
毎度のことで恐縮ですが、TechCrunchの「Webビジネスの長期的な成長を支えるのは完璧な顧客サービスのみ–それさえあれば誰にも負けない」です。
これによれば、

インターネットの上の情報は“無料”がふつうだから、ともすれば企業は、お金を払っていないユーザには顧客サービスを受ける権利がない、企業は彼らに顧客サービスを提供する義務がない、と考えがちだ。
しかしその考え方は二つの点で短絡的すぎる。まず第一に、今日の無料ユーザは明日の有料ユーザだ。そして第二に、無料ユーザもすでにいろんなものを“払って”いるのだ。MyFaceなどに登録するとき、グループに参加するとき、メールを送るとき、チャットをするとき、Facebookなどでステータスをアップデートするとき…どんなときでも、ユーザは自分の個人情報を“払って”いる。その“支払い”と引き換えにユーザは価値ある情報を得る。情報ばかりでなく、ACME Inc.のようにユーザに広告を押しつけるサイトもある(広告も個人情報によって差別化される)。

とあります。
まさにその通り、と感じました。
たとえばGoogleユーザーである私は、既にドメインを2つGoogleから購入し、ストレージを10GBにアップグレードしています。すべては無料のGoogleですが、使い込めば使い込むほど、有料ユーザーに結果としてなってしまっています。

またWeb広告の世界では行動ターゲティング広告が時々話題になりますし、私自身の広告論の講義の中でもいつも強調していますが、Webサービスを利用すればするほど自らの個人情報を企業に与えており、企業はその結果利益を得ることが可能になっています。
つまり記事の通り、個人情報を”払って”いるわけで、無料ユーザーだからケアしなくていい、という議論はすでに通らないと感じています。

顧客によるブランド認識は経験を通じて醸成されることは、すでにあらゆる方面で書き立てられ、理解されているはずです。そして、そういった顧客の経験がブログや日記を通じてネット上に公開され、それをみんなが読む、という情報伝達が一般的になってきています。

同記事では、

Saatchi & SaatchiのCEO Kevin Robertsは、“今はどのブランドもガス欠だ”と言っている。彼によれば、ブランドを救うものは“愛”だそうだ。彼曰く“理屈ではなく、単純な「好感」がブランドロイヤリティを築く”。そして、企業や製品が好感度ナンバーワンのブランドになるためには、顧客サービスが何よりも重要だ。Robertsは、ブランドは単なる名前や商標であることを超えて、消費者の“愛好物(Lovemark, お宝)“になるべきだと言う。言い換えると、理屈や理性を超えて、単純に“好きよ”という気持ちにさせるブランドであること。

と主張します。
この”好きよ”というのはすごく難しいことだと思います。

たとえば、昔からモダンで先端的なイメージの製品を発売しているSONYのファンは非常に多く、ブランドイメージも高いです。かくいう私も、学生時代のウォークマン以来、デジカメは10年前の初代からずーっとSONYだし、PCはVAIOの初代から使い続けているし、その関連でメモリースティックユーザーでもあったので携帯電話もソニーエリクソンだったし、ICレコーダーもSONYです。イヤホンだってエルゴデザインの純正SONY製品を使用しているほどです。

しかし今、「次のパソコンはどこのメーカーを購入しますか?」と問われれば、DELLかもしれないし台湾製のネットブックかもしれない、と回答してしまうでしょう。理由は?
最近のSONYには、正確には5年ほど前からのSONYには魅力を感じられないからです。モダンで先端的な製品イメージはすっかりなりをひそめ、一般的でもない機能をオシャレな広告でごまかしているとしか感じられないからです。

その結果、携帯電話は先日購入したシャープ製品の前の代からソニエリは捨て去りました。次のPCも絶対にSONYは選択しないでしょう。携帯電話がメモリースティックではなくなったので、SDメモリが使える機種にする可能性が高いですね。
ただしSONYの顧客サービスは非常に優れているので、この点はデメリットになるかもしれませんが、ほとんどの機能がWebサービス化していることを考えれば、今後は難しいトラブルがPCにおいて発生することはないのかもしれません。

企業の中には、顧客サービスを有料化したいと考えているところも多いと思います。しかしインターネットユーザーはそれを希望していないというジレンマがあります。
私はどちらの立場も理解できますが、企業が折れて顧客の希望を聞いていかなければ存続すら難しくなるのではないでしょうか、この記事の主張のように。
それは、SONYのようなメーカーは製品を通じて顧客から”好き”と思われることが可能ですが、形のないサービスを売るような企業においては、顧客サービスだけで判断されてしまうためです。「ああ、あの企業は素晴らしいね」という声が得られるかどうか、がとても重要なことになっていると思います。

これはパークハイアット東京に宿泊したときのことです。
たまたま早くチェックインしたのですが、そのためでしょうか、冷蔵庫の準備が完全にできていませんでした。そのことを客室係に伝え、中身の補充をしてもらいました。普通はこれで終わりですよね、付属品として丁重な謝罪の言葉を係りの方からいただけるぐらいでしょう。
しかしパークハイアット東京は違ったのです。

その日の夕食をルームサービスで楽しんでいたときのことです。食事が7割がた終わったと思われる頃、ドアのチャイムが鳴りました。何の用かと思ってドアに近づくと客室係だといいます。
とりあえず、ドアを開け招き入れると、客室係のマネージャーがルームサービス担当を引きつれ、お詫びに上がりました、といいます。そのお詫びとして「こちらのデザートをどうぞ」と持ってきたのです。
通常はデザートのフルーツをオーダーするのですが、この日はなぜかオーダーしていませんでした。
なので、これだけでもワンランク上のサービスの印象ですが、持ってきたデザートがさらにすごいのです。中身がではありませんよ、念のため。
いつもフルーツを頼むことは頼むのですが、私はイチゴだけの盛合せをオーダーするのです。そしてこのときプレゼントされたデザートが、まさにイチゴだけの盛合せだったのです。

私はハイアットのメンバーですが、メンバーだけにこんなことをしているとは思いません。
できた当初だと思いますが、パークハイアット東京の顧客サービスの理想像は京都の旅館だと聞いたことがあります。京都の旅館なら確かにこんなことをするかもしれません。

私のような体験があって、初めて”好き”という顧客が増えるのだと思います。
効率優先の私ではありますが、パークハイアット東京は本当に”好き”なブランドです。