美しきシモネッタ ~丸紅コレクション展~



今日まで新宿の東郷青児美術館で開催されている丸紅コレクション展を見てきました。

私の目的はボッティチェリの「美しきシモネッタ」だったのですが、衣装のほうのコレクションもすばらしいものでした。

ちょっと見られないものが多いように感じました。


江戸時代の夏用の絽のきものにはカマキリの大名行列が描かれていたり、蓑をつけた男たちが河岸で働く様子がデザイン化されたものなど、今では考えられないような意匠が見られます。

江戸時代のデザインセンスには秀逸なものが多いですね。


さて、目的のシモネッタですが、これはすばらしいものでした。

テンペラ画なので、ひびも見られず、そして透明感のある輝きを放っています。

このシモネッタは、アメリゴ・ヴェスプッチのいとこだか、またいとこだかの血縁者で、フィレンツェが最も繁栄していた時代の当主ロレンツォ・ディ・メディチ(イル・マニーフィコ)の弟で、ジュリアーノ(イル・ベッロ)の恋人だった美女。

多分、私の記憶では、この肖像画は塩野七海さんが書かれた著作のどこかに使われていたと思うんですが、イタリアの歴史に関するものはかなり濫読したことがあるので定かではありません。

ルネサンス時代を代表する有名な女性を描いた有名な絵画であることは間違いありません。


以前、ある大学の先生で、ご自身もアーティストとして活躍する方から、絵画における手法の話を楽しくうかがったことがあります。

その方に言わせれば、出来上がりの美しさの永続性という点において、テンペラ画に勝るものはないそうです。

その方は学生時代にヨーロッパ人の先生に技法について学ばれたそうで、それぞれの技法にあった絵具を作り、漆喰に直接書くフレスコ画、テンペラ画といった、現代ではなかなか見られない技法を実際に体験されているそうです。

なかでもテンペラ画は、「ドレッシング」を作っているようなものだそうで、卵や酢、油などが利用されていると聞きました。
おいしそうです。


フレスコ画もそうですが、絵画の永続性が求められたのは、やはり宗教すなわちキリスト教における民衆の教育といった面が強かったからかもしれません。

当時は教会に描かれたり、飾られたりした壁画、絵画、彫刻といったものがすべて聖書の代替物として考えられていたためです。

識字率が低いこともありましたが、グーテンベルクの活版印刷が登場するまで、聖書のような書物は最高級の贅沢品だったからです。

すべて手書きの上に羊皮紙を使っていたのですから当然でしょう。


現代のようにアーティスト個人が1枚の絵を完成させていた時代とは異なり、工房というグループワークが主流だった時代は、絵画は芸術というより内装工事やカメラマンのような役割に近かったと理解するほうが正しいと思います。

よって、顧客からクレームのこない仕事をするために、職人が知恵を出し開発した技術がテンペラ画やフレスコ画なんでしょうね、きっと。


世界の名品が揃っているフィレンツェのウフィツィ美術館には、なぜか縁がなくて足を運んでおりませんが、シモネッタを見てしまうとウフィツィに早く行かねば、という気持ちになりました。

円高のうちにヨーロッパを満喫するのも悪いことではなさそうです。


ウフィツィ美術館―フィレンツェの名画100+1
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