逆行する日本2 <労働市場>

独立行政法人労働政策研究・研修機構の昨年実施した調査では、「終身雇用」を支持する割合が高くなり、フリーターに対しての評価がネガティブに変っているようです。
近頃盛んに労働力不足、派遣の正社員化、といった事柄が取りざたされていますが、話が大きくなった結果、労働市場の流動性を低くするようなことになってきていると感じます。

日本の労働市場では、正社員としていったん雇ってしまうと、本人が犯罪に手を染めない限り、解雇できないという慣行があります。正社員を辞めさせることができないわけですから、いきおい企業は正社員の採用を控え、派遣やアルバイトに頼ることになります。

派遣を正社員化させようという法制度を整備しようとしている官僚と政治家がいますが、派遣でも優秀な、企業が採用したいと思うような人材は、既に採用が進んでいます。本人が正社員になりたくない、という意思が強ければ、もちろん別ですが。
というのも、派遣社員人材の中から正社員に積極的に採用するようなベンチャー企業でも、最近は派遣から正社員になる人材が少なくなっているからです。つまり、ぜひ正社員に、と望まれるような人材はすぐに正社員として採用され尽くしているのではないか、と推測されるのです。

実際、本当に就職が厳しかった(有効求人倍率が0.5あたりまで下がった)1998年、1999年あたりに大学を卒業した人たちの中には、仕方なく派遣社員として登録して働き始めた人が多かったでしょうが、その後景気が上向きかけてからどんどん正社員になっていったという話を聞きます。
一方、現在派遣社員として働いている方々がどうして正社員として採用されないのか。理由は大きく2つに分けられるのではないでしょうか。

1.正社員として雇用できる人員数が限界に近づいてきた
2.正社員として雇用できる能力に達していない

1は、最初に書いた正社員の流動性を、法的に否定するような慣行が存在することが原因です。お付き合いのあるお会社の中で、この人はどういう役に立っていてこの給与額なんだろうか、と頭を悩ます人材に出会います。大抵そういう印象の方は、社内でも人材活用の問題となっている場合が多く、担当者も「辞めさせるわけにいかないから」という理由で留保されてしまいます。
もしこのような慣行が存在しなければ、能力不足で排除することができ、新しい人材をもっと高い給与で雇うことができます。

2は、少し問題が複雑です。
企業は、ゼネラリストとして優秀な人材を雇いたい、マネジメント能力の高い人材を雇いたい、と希望している場合が多く、たとえばオペレーターのような業務に対して高い能力があっても他の能力がなければ採用に至ることがあまりありません。
また派遣社員に対しては、幅広い業務を任せることが少なく、派遣社員自身が業務を通じて自身の能力の幅を広げ、また能力を高めることができない仕組になっています。
派遣社員として働く方は、独自に勉強しなければならない状況に陥っているのですが、この局面を積極的に打破しようとしているような方は、すぐにも正社員となることができるでしょう。結局与えられた環境をどうにかして変えてやる、という気持ちがないと採用されないのではないでしょうか。

まずは正社員を企業の意思で辞めさせることができなければ労働市場の流動性が高まらず、閉塞感は増すばかりです。
「終身雇用がいい」などといわれて就職されても、今や企業に、そのような希望を受け止めるだけの体力はありません。むしろ終身雇用であることを標榜するリスクのほうが大きくなるはずです。それはパフォーマンスの悪い社員が残り、有力人材が流出する、という事態です。

正社員の流動性が高ければ、終身雇用も可能となります。企業にとって有用な人材として評価されていれば、結果として正社員としてい続けられるわけですから。日本のホワイトカラーのパフォーマンスの低さも、結局のところ、正社員&終身雇用にあぐらをかいているレイジーな日本人が多数を占めるためではないかと思うのです。


PS.
ちなみに、最近聞いた話では、外資系の金融系企業が新卒採用のターゲットにしているのが東大医学部だそうです。数学できそうですもんね。
彼らは既に、年功序列で若いときには会社に搾取されるような日本企業を選択しなくなっているわけで、非常に合理的に自らの能力を売っているわけです。労働力の流動性が、こういうところで起こり始めているのです。